小野川温泉の観光ブランドづくり

蔦 幹夫

 

「金を掛けず、知恵を出す」が小野川温泉のまちづくりの方針である。20数年前、観光整備計画が作られたが、計画の実行を断念した過去がある。その計画はハード整備主体であり、資金の捻出が困難であった。平成13年にJR東日本&JTB若手勉強会の来訪を機会に、ハード偏重ではなくソフト重視の観光地づくりが始まった。「ないもの探し」でなく、「今あるもの」の発展的な活用は小野川温泉の魅力度を高めるソフトのまちづくりそのものである。小野川の住民の70%は一般住民で、生活感があり、地域全体で温かく観光客をもてなす「住み良い温泉地こそ訪れたい温泉地」を目指している。

 小野川温泉は山形県米沢市の西北の山間にあり、小野小町が発見したと伝えられる温泉地で、宿泊施設17軒、収容人員約900名の小規模旅館の温泉街である。それぞれの旅館は小さく、宿泊客に旅館内で各種の楽しみを提供することは規模的に限界がある。幸いにも、小野川温泉は温泉街があり、旅館だけでなく、商店も多数あり、温泉街の外には最上川の源流の大樽川が流れている。ホタルの里としても知られる身近な自然が豊かな温泉地である。小野川温泉は観光客を旅館内に留めなく、観光客が温泉街や周辺の自然を楽しみ、顧客満足度を高めるソフトプランの「小野川温泉お楽しみプラン」を実施している。まち全体を楽しむプランである。このプランの実働部隊が小野川温泉観光協議会の若手で組織される小野川温泉観光知実行委員会である。観光知の知は小野川に住む人、まち全体の生活や文化を知り、知恵で発展的に活かし、魅力ある温泉地をつくる「知る」と「知恵」の意味がある。

 小野川温泉の各旅館・商店に無料のイラスト散策マップがある。マップの裏には「小野川温泉お楽しみプラン」が掲載されている。具体的内容は、1、夢ぐり・・小野川温泉の全ての温泉旅館15軒・共同浴場2軒を宿泊客が1000円の独楽の手形で3軒を湯めぐりできる。使い終わった独楽は独楽の里つたやで無料で独楽の色付け体験ができる。2、露天風呂・足湯・飲泉所・・小野川温泉観光知実行委員会が維持管理する露天風呂1ヶ所、足湯2箇所、飲泉所2箇所を観光客が無料で利用できる。各旅館が設置し、一般客にも開放している足湯も4箇所ある。3、朝市・・JA支所で毎週日曜日開催。4、温泉街散策・・散策マップと温泉街のお休みベンチの設置。5、レンタサイクル・・自転車屋と各旅館で無料で自転車の貸し出し。6、何処でも出前・・小野川の街中やビューポイントにテーブルを設置し、出前メニューを張り出す。携帯電話で注文すると米沢ラーメンが出前される。冬期間はかまくらを作り、出前する。7、独楽の里つたや・・独楽の色付け体験。8、インフォメーション・片葉の葦・・休業中のタクシー営業所を情報ステーションと休憩場所にしている。9、小町苑・・足裏マッサージの施設。

 これらに共通する事は、ハード主体や新規なものでなく、知恵で、今ある施設やシステムを活かし、発展させたものである。「金を掛けず、知恵を出す」ことで温泉全体を観光客が丸ごと楽しむシステムである。これらは小野川温泉観光知実行委員会が主体的に行っているものだけでない、他組織や事業所と連携し行っているプランもある。例えば、何処でも出前は小野川温泉観光知実行委員会が場所を設定し、会員のラーメン屋の3事業者が実施している。行政が一体的に支援できなく、規模的に小さい小野川温泉ではすべてを主体的に取り込むことは不可能である。小野川温泉のコラボレーションであり、民間活力の導入とも言える。これらのお楽しみプランも地域住民も楽しんでいる。無料の露天風呂は地域住民と観光客の語らいの場、触れ合いの場である。お楽しみプランのほとんどは観光客だけでなく、地域住民も利用している。小野川温泉の魅力を地域住民が楽しみ、その楽しみを観光客も一緒になり満喫するのである。その楽しみの共有が地域住民のホスピタリティーの基盤であり、「住み良い温泉地こそ訪れたい温泉地」への第一歩と考える。

 小野川温泉は観光客がまち全体を楽める事で顧客満足とリピーター化を高めようとしている。小野川温泉の素材を磨きこみ、お楽しみプランに高めるためのまちづりボランティア作業が必要である。無料露天風呂・足湯・飲泉所・インフォメーションの維持管理や街中の清掃をしている。楽しく、美しく、魅力ある温泉する事で小野川温泉のブランド力は高まり、温泉全体の集客力は高まる。しかし、各自の事業は必ず売上が増加するものでない。小野川では、「まちづくり作業は平等で、民主主義だが、結果は自由主義経済で、果実は平等でない。各自の自助努力が必要である」と言う。まちづくりを行えば、各自の事業が発展すると思いがちであるが、まちづくりと各事業所の自助努力の両方が大切と言っている。まちづくりによりまちのブランド力が高まり、多くの集客で、各事業所の自助努力の成果も出やすくなるからである。また、各事業所の自助努力も小野川温泉の魅力を高め、小野川温泉のブランド化を推し進める。

 小野川温泉の観光ブランドづくりはソフトも大切であるが、ハードも大切と考えている。お楽しみプランのソフトだけでなく、美しい小野川温泉づくりの景観形成を行おうとしている。一度作ったハードは小野川温泉の景観にふさわしくないとして簡単に壊せない。そして、すぐさま景観形成することも不可能である。1020年を見据えた計画のもと、ハード整備を行おうとしている。それが昨年から始まった「小野川温泉ビジョン策定委員会」である。昨年度はコンセプトづくりを観光関係者・地元民・行政・関係機関が参加して行われた。より広範囲にわたった総合的なまちづくり、温泉地づくりのビジョンを観光業者はもとより、地域住民全体で考え、提示した。地域と一体化したビジョン策定は計画の実現と小野川温泉の永続的な発展を可能する。小野川の周囲の自然景観保全や温泉街の景観整備など永続的に輝き続けていくための総合的なまちづくりのビジョン策定である。本年度は昨年のコンセプトの「ほっとするやすらぎが時間を忘れさせる温泉地づくり」に基づき、1、温泉情緒あふれる空間の形成 2、交流・連携の仕組みづくり 3、地域資源の活用の具体的な計画書作りを行い、小野川温泉の基本計画を策定する。これに基づき、美しい小野川温泉づくりがはじまる。ホタルに象徴される身近な自然があり、1200年の歴史がある小規模な温泉地にふさわしい温泉情緒ある景観作りを計画し、1020年かけて実行する。

 小野川のまちづくりは温泉街全体でお客さんをもてなすプログラムである。お客さんは旅館を選定する前に、温泉地を決定するが、まちづくりは顧客満足で小野川温泉のブランド力を高め、温泉全体で集客力を高める事にもなる。まち全体の生活や文化を活かしたソフトプランの充実と美しい小野川づくりのハードづくりで小野川温泉のブランドを高めたい。